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なぜドラッカーは日本を訪れ、 渋沢栄一を研究したのか?

 

日本のチカラ、日本人の誇りの原点を探るシリーズ

■帝王學のエッセンス No.1

なぜドラッカーは日本を訪れ、
渋沢栄一を研究したのか?

信和義塾®学長 中野 博

世界一歴史がある会社

あなたは『世界で一番歴史がある会社』をご存知でしょうか? さすがにご存知ないと思うので、紹介しますね。創業が578年、今年で1436年目になる『金剛組』(大阪市天王寺区)なんです。この会社のストーリーがまたスゴイのです。

金剛組のウェブサイトによると、あの聖徳太子の命を受けて、海の彼方「百済の国」から三人の工匠が日本に招かれたそうです。このうちの一人が、金剛組初代の金剛重光。この工匠たちは、日本最初の官寺である四天王寺の建立に携わったそうで、初代の重光は、四天王寺が一応の完成をみた後もこの地に留まり、寺を護り続けます。そしてその後、法隆寺など数々の寺院を建築してきたのです。

創業1436年目の世界最長老の金剛組は帝国データバンクに出ていますから、興味ある方は確認してください。ちなみに、民間で初めて金剛組が聖徳太子から直に秘伝の教えを授かったそうです。その教えは別の機会でお伝えしますね。

さて、金剛組という社名はかなりゴッツいですよね。 そもそも、この金剛というのは密教の「金剛頂経」から取った名前で、ダイヤモンドという意味です。ダイヤモンドのチームが「金剛組」ということなので、これは壊れようがないですね(笑)。

これほど歴史がある会社は、世界史に類例がありません。米国を含めてたくさんの国家の歴史以上に長い歴史を持っているわけですから。実は、あのスティーブ・ジョブズはこの金剛組や金剛頂経に興味があり学んだってことをご存知でしたか?

ジョブズはインド哲学、中国の孔子や老子、日本などに伝わる密教にとても関心があり、これらを学んでいたことは有名な話ですよ。現在建設中のアップルキャンパス2もその教えを活かしていることからわかります。

ドラッカーと日本の偉大な資本家

ところで、スティーブ・ジョブズよりも遥か60年以上も前に日本を訪問して、もの凄い勢いで学び、吸収して世界的な知の巨人になったのがピーター・ドラッカーです。なぜ彼が日本に興味を持ち、訪れたのか? 彼は一体何を学ぼうと時間をかけてきたのでしょうか?

答えは金剛組ほどではないにしろ、日本には長命企業(100年以上存続している企業の意味)が数多く存在していたことと、偉大なる資本家がいたからだそうです。その資本家こそが、『論語と算盤』で有名な渋沢栄一であり、鮎川義介という大実業家なのです。渋沢栄一は資本主義の父と言われるだけあって、大企業を500社以上も創ったことで有名ですね。これに対して、意外と知られていないのが鮎川義介です。

彼は「日本産業グループ」を創設した大実業家ですが、武士道と葉隠精神で自分の財産(子供に跡を継がせず、株も持たない!)も名前すらも残すことを避けた偉人です。彼が携わった会社は中小企業だけでも軽く1万社以上にのぼり、大企業については、日産、日立、日本水産、日本テレビなどなど161社もあります。

日本には江戸末期から明治時代に、こうした武士道、葉隠精神、道徳と経済などを融合させたステキな経営の実践者がいたのです。研究熱心で情報網を世界に張り巡らせていたドラッカーは彼らの偉業と背景、理由や哲学を学ぶために来日したのです。

さて、そこで、ドラッカーがさらに驚いたことがありました。それは100年以上も長く続いている会社が2万社以上(当時)もあったことです。日本は世界に類例のない資本主義をやっているのです。

もちろん、これは西洋の資本主義ではありません。日本的資本主義には、武士道が入っているのです。自分の腹を切るほどの責任感というのはその当時、世界に類例がないと、あのドラッカーは自著に記しています。どの本に書いてあるかは、勉強になりますので、ぜひ探してみてくださいね。

ドラッカーがこだわった
「景気」という漢字の意味

さて、ドラッカーが日本に来て、あれこれ質問をしたわけですが、彼が執拗にこだわったのが、「景気」という漢字の意味についてでした。彼は外国人ですから、日本人のように1つ1つの漢字を見過ごすことがなかったのです。おそらく大半の日本人は「景気」という漢字に込められたメッセージを簡単に見過ごしていますよね。

ドラッカーの質問はこうです。
「『景気』という文字の『景』というのはどういう意味ですか?」

こんな質問をあなたはしたことがありましたか? ドラッカーの質問に対して、当時の担当官はこう答えたそうです。

「太陽の光が京都の街を照らしています。街を照らす力が『景』という意味です。」

粋ですね! 続いてドラッカーは質問しました。

「『気』という文字はどんな意味ですか?」

これまた、あなたは質問したことなんてないですよね!(笑)さて、ここで日本人担当官はエクセレントな回答をしたそうです。

「『気』は心と言います。心で街を照らす力、こういう意味です。」

いかがでしょうか?
この2つの質問の答えを聞いてドラッカーの理論が変わったわけです。つまり、「あらゆる経済活動は人間の精神活動に由来する!」という理論ができたのです。

もし、ここで「気」の意味が心ではなく、「金」だったら、エコノミーと同じだから理論は変わらなかったそうです。日本では景気とは言っても、景金とは言わない。漢字には深い意味があるだけではなく、もの凄いエネルギーが潜んでいるのです!